ミャンマーの医療事情

2021.03.22

ミャンマーの医療事情とその課題を解説します

ミャンマーで起業し、ミャンマーである程度長く生活をしていくことを考えると、気になるのは現地の医療事情です。

現地で体調を崩した場合はどうすればいいのか、ミャンマーの医療事情がどうなっているのか、というのはぜひ知っておきたいところですよね。

この記事では、気になるミャンマーの医療事情やその課題について解説していきます。

ミャンマーの医療制度の現状

ミャンマーの医療制度

ミャンマーには、全国民を対象とする公的な医療制度はありません。ミャンマーも日本のような国民皆保険制度で医療保障を充実させることを目標にはしていますが、実現には至っていないのが現状です。

また、ミャンマーの公的な病院の医療機器や設備の水準は、日本と比べて高くありません。外資による私立病院もありますが、そこでも日本では当たり前に受けられる治療が受けられなかったりします。

ミャンマーの医療事情については、在ミャンマーの日本大使館によれば先進国と比べて20~30年ほど遅れている印象だといいます。外務省では、「(ミャンマーの)医療体制は極めて脆弱」と表現しています。日本水準の医療をミャンマーの病院で受診できるとは考えない方がよいでしょう。

特に心臓などに持病を抱えている人などについては、狭心症の発作や心筋梗塞といった緊急の事態に対応できる医療機関がかなり限られているとして、在ミャンマー日本国大使館でも「(訪問・滞在は)おすすめできません」としています。

では、現地の社会保障の制度はどのようになっているのでしょうか。その概要を説明します。

社会保障法にもとづく医療制度

ミャンマーで社会保障制度としてまず挙げられるのは、国の社会保障省の管轄によるものです。社会保障法という法律に基づいた医療保障が存在しています。

5名以上の労働者を雇用する事業主には、この制度に加入する義務があります。有期雇用の労働者も対象となります。ただし公務員や国際機関、農業・漁業などの季節労働者、NGO職員などは含まれません。

この制度では、診察費と一部の入院費は自己負担なしで無料です。ただし、運用されているのは国が管轄する公的病院やクリニックのみです。

また、診療に使う薬剤費や医薬品は全額自己負担となっています。そのため重大な病気になった場合には多額の薬代がかかります。 

さらに、病院や傷病によっては満足な治療を受けられないこともあり、無料の公的病院でなく有料の私立の病院にかかる富裕層も多いといいます。

また、経済産業省による「医療国際展開カントリーレポート ミャンマー編(2020年)」によると、この制度の加入者数は約95万人となっています。

ミャンマーの人口は約5300万人ですので、加入者は2%にも満たないということ。国の社会的な保障としては弱いと言わざるを得ません。

医療費の公的負担制度

保健省が管轄する公的病院で診察を受けた場合、診療費の一部が無料となる制度があります。無料となるのは、入院時の検査やレントゲンなど画像診断などが対象です。医薬品は無料です。

この制度はミャンマーの全国民が対象となっており、国がすべてを負担するため、本人負担もありません。

ただし民間病院は対象とならないので、民間病院での治療は全額を自己負担する必要があります。

国防省による制度

ミャンマーには、国防省による軍関係者のための医療保障制度もあります。軍関係者やその家族は、国防省が管轄する病院であれば医療サービスをすべて無料で受けることができます。

社会保障の制度としては多くの課題があり、まだまだ国民皆保険制度の実現は遠いものと考えられます。

ミャンマーの医療機関と医療従事者

ミャンマーの医師

続いて、ミャンマーの医療機関や医療従事者の実情を見ていきます。

ミャンマーの主な公的医療機関

ミャンマー国内の病院数について、政府によると、公立病院が1144施設、私立病院が239施設あると発表されています(2019年4月現在)。

ヤンゴンの主な公的医療機関としては、「ヤンゴン総合病院」「新ヤンゴン総合病院」「セントラルウィメンズ病院」があります。

しかしたとえばヤンゴン総合病院では、メイン病棟の建物は1905年に建てられたものであり、建物のメンテナンスも十分でない状態です。

私立では「グランド・ハンザ国際病院」「サクラメディカルセンター」「パシフィックメディカルセンター」 といった医療機関があります。

2014年時点からの5年間で、病院の総数は20%以上増加し、高度な治療を受けられる外資系の私立病院も年々オープンしています。「ミャンモン東京クリニック」のように、日本人の駐在員向けに日本語専用デスクを準備している病院もあります。

病床数について

ミャンマー国内で病床数が100以上ある病院は限られており、全体の10%以下にとどまっています。

地方在住の場合、周辺に大きな病院がないため、ヤンゴンやマンダレーなどの大都市へ通わなければならない人も多くいます。国全体に十分な医療が行き渡っていないことも、ミャンマーの1つの課題となっています。

国内の医療水準が高くないので、富裕層が治療や健康診断のために海外へ行くこともミャンマーでは一般的です。日本でも、過去に中国の富裕層が治療を受けに来ることで話題になりましたが、ミャンマーも例外ではありません。

ミャンマーのからの海外治療先には、同じ東南アジアであるタイシンガポールを選ぶ人が多いようです。特にタイのバンコクでは、病院が航空券やホテルの手配、空港の送迎サービスまで手配するサービスなども生まれています。

医療従事者の数

ミャンマーの医療従事者数グラフ

ミャンマーの医療従事者の数は、医師の数は約3万6000人、看護師の数は4万6000人です(2017年時点の数字/WHO)。日本に医師が約31万人、看護師は約114万人いることを考えると、日本とミャンマーとの人口比を加味しても非常に少ない人数です。

人口1万人あたりの医師の数で比較すると、日本は1万人当たり24.12人(2016年)なのに対し、ミャンマーでは1万人に6.77人(2018年)となっています(WHO「The GLOBAL HEALTH OBSERVATORY」)。

ミャンマーでは全国的に医療従事者が人手不足となっている現状がうかがえます。今後の人口増加を考えると、制度だけでなく人材にも大きな課題があります。

医師の勤務先について

ミャンマーでは、半数以上の医師が私立病院にて勤務、もしくは公立病院と兼業で勤務しています。医師であっても、一つの病院だけでなく、複数の病院で勤務するのが一般的なのです。

その裏側には、給与の違いがあります。日本では給与が高いイメージのある職業ですが、ミャンマーでは決して高くありません。少しでも良い待遇を求めて、給与の高い外資の私立病院に流れてしまうのは避けられないのでしょう。

ミャンマーで多い病気と予防接種

ミャンマー渡航前の予防接種

日本ではあまり聞かないような病気も、ミャンマーではリスクの高い病気や伝染病として警戒しなければなりません。

リスクの高い病気、感染症など

ミャンマーでもっとも身近で厄介なのは、食中毒です。不衛生な環境で調理されたものや、生の食べ物、水道水にも感染のリスクがあります。

また、ミャンマーでは、日本では絶滅したと言われる狂犬病も存在しています。日本では飼い犬への狂犬病予防接種が義務化されていますが、ミャンマーではまだ予防策が行き届いていません。

狂犬病は狂犬病キャリアの犬に噛まれると32~64%が感染し、発症した際の死亡率は100%と言われています。ミャンマーを含む東南アジアでは野良犬をよく見かけますが、興味がある素振りを見せたり近づいたりするべきではありません。

もし万が一野良犬に噛まれてしまった場合は、傷口を石鹸水で洗い流し早急に病院へ行き、狂犬病と破傷風のワクチンを接種する必要があります。

その他、C型肝炎やHIVのように性行為や血液によって感染する病気や、蚊を媒介する病気であるデング熱やマラリアも流行しています。ミャンマーで暮らす中で感染する確率を0にすることは難しいですが、リスクを把握し、衛生面に配慮した生活を送りたいものです。

日本でも予防接種を受けられるので、渡航するならできる限りの対策は行っておきましょう。

日本で受けておきたい予防接種

ミャンマーに行く際に推奨される予防接種は、主に次の3つです。

  • A型肝炎
  • B型肝炎
  • 破傷風

これは「途上国3点セット」とも呼ばれています。

日本では、幼少時に破傷風の予防接種をすることは一般的です。しかしA型・B型肝炎の予防接種をしている人は多くありません(平成28年10月よりB型肝炎は定期接種の対象)。

A型・B型肝炎患者は日本でも最近首都圏を中心に急増しており、途上国でなくても警戒すべき病気になりつつあります。

このほか、厚労省からは犬や野生動物に触れる可能性がある場合は狂犬病、農村地域に長く滞在する予定であれば日本脳炎の予防接種も推奨されています。

企業の一社員としてミャンマーに赴任する場合は、総務部などで予防接種の手配をしてくれることがほとんどです。上記の3種以外にも、結核(BCG)や狂犬病の事前ワクチンなども日本で受けられます。

子どもの定期予防接種

ミャンマーに家族をともなって渡る場合は、子どもの予防接種についても把握しておかなくてはなりません。日本とは受けられる予防接種も異なります。

横浜市公式サイトによると、日本で行われている予防接種のうちミャンマーで実施されていないのは、日本脳炎と人パピローマウイルス16型・18型による子宮頸がん、外陰がん、膣がん、肛門がんおよび6型・11型による尖圭コンジローマです。

一方、ミャンマーで実施されているのに日本で定期実施されていないのはB型肝炎の予防接種のみです。

摂取時の年齢も関係してきますので、渡航前に病院へ確認するなどしてください。

医療系ビジネスの可能性

ミャンマーの医療ビジネス

ミャンマーの医療市場は、国の経済的な成長にともなって毎年20%以上も拡大しています。また、病院では慢性的な医療機器不足に陥っており、品質の高い日本製のものを求める声は多いです。そのため、日本にとってミャンマーは、医療系ビジネスの可能性が見出せる国でもあります。

実際に、次のようなビジネスが日本からミャンマーに展開されています。

日本からミャンマーへの医療ビジネス展開例①

2017年12月に日本の大塚製薬とDKSHグループのDKSHミャンマー株式会社との間で、医療用医薬品の販売に関する契約を締結したと発表がありました。

大塚製薬はKSHグループのDKSHミャンマーを通じて、大塚製薬製の抗血小板剤「プレタール」および胃炎・胃潰瘍治療剤「ムコスタ」の販売を行っています。

DKSHミャンマーはアジア全域に拠点を持っており、市場調査やマーケティング、物流、販売に長けた会社です。

これを機に、日本製の医薬品がミャンマーに浸透していくことが予想されています。

日本からミャンマーへの医療ビジネス展開例②

2019年7月に、愛知や岐阜で 13の施設を運営する医療グループ「ベルネット」の医療法人葵鐘会(きしょうかい)が、ヤンゴンにあるミャンマーのバラミ総合病院との医療協力に合意したと発表されました。

葵鐘会は、2021年に新設される総合周産期センターで日本式の周産期医療の医療協力を行うとのこと。

新生児管理、腹腔鏡手術、不妊治療、助産師業務においても医療協力を開始し、日本式の医療がミャンマーで広がっていくことが期待されています。

日本からミャンマーへの医療ビジネス展開例③

2017年6月に、日本の協和医療器とミャンマーのサッカーリーグに属するヤンゴン・ユナイテッドFCがスポンサー契約を結びました。協和医療器はスポンサー契約を機に、医療技術や医療機器をミャンマーへ持ち込み、ミャンマーの医療・衛生環境の水準を上げることを目指しています。

他にも数多くの日本の企業がミャンマー進出の検討を行っています。規制が多く参入擁壁の高いビジネスですが、ミャンマーが長年抱える問題を解決できる、大きな可能性を秘めたビジネスであるとも言えます。

課題が多いミャンマーの医療制度

ミャンマーの医療課題

ミャンマーの医療事情とその課題を解説してきました。ミャンマーでは日本のように社会保障制度が整っておらず、現状には課題が山積みとなっています。

医療サービスを受ける側としては、万が一に備えて自身を守ってくれる任意の保険に加入する、設備やサービスの水準が少しでも高い病院を把握しておく、などの事前準備が重要です。

一方で、医療関連のビジネスを考える人にとっては、ミャンマーには医療ビジネスにも大きなチャンスがあります。

医療を行うといった直接なつながりでなくても、バンコクの病院のように付随するサービスを生み出すこともできるでしょう。

医療を行うといった直接なつながりでなくても、バンコクの病院のように付随するサービスを生み出すこともできるでしょう。

医療に関しては、いつの時代も必要不可欠なものです。ミャンマーは国・民間企業ともに投資を増やすなど注力しています。進出を目指す日本企業にとって見逃せない市場であることは間違いありません。