ミャンマーの労務管理

2021.03.05

ミャンマーの労働事情と労働に関する法律

ミャンマーで起業し、現地で人を雇って事業を営むためには、まず現地の労働事情や労働関連の法律についてよく知っておく必要があります。

特に起業してしばらくは、忙しくて目が回るほどでしょう。会社の登記やコンサル会社とのやり取り、日本側の取引先との連携などを進めながら、働く人を集めることになります。そのため、現地の労働事情や労働に関する基本的な法律はあらかじめ把握しておきたいものです。

ミャンマーの労働事情

ミャンマーの労働環境イメージ

まず、ミャンマーの労働事情について平均年齢や賃金を見ておきましょう。

ミャンマーの労働力

ミャンマーは非常に若い国であり、今後の労働力に期待できる国です。

ミャンマーでは、総人口5300万人ほどに対し労働人口は3045万人で人口の57%の割合となっています。日本では人口1億1千万人に対して労働人口が6600万人と約60%の割合ですが、着目すべきはその年齢分布です。

ミャンマーの平均年齢は28歳で、10歳~15歳が最も人口ボリュームの多い層となっています。まだ労働人口として数えられない若い世代が多数を占めているのです。

日本は少子高齢化が進み、40代と60代の世代の人口が最も多いです。労働人口の割合に大きな差がなくても、ミャンマーは若い世代が多い分、将来に期待ができると言えます。

また、ミャンマーの労働人口を産業別でみると、農業が26.7%、製造業34.5%、サービス業が38.5%です。従来から農業や製造業従事者の割合は高かったのですが、最近ではサービス業の割合も増えてきています。特に、ITの仕事(サービス業)は花形です。若くて優秀なミャンマー人が集まることが予想されます。

ミャンマー人の年収

ミャンマーの平均年収は13万円。日本と比べて30分の1ほどの数値です。

ミャンマーの賃金は年々上昇傾向ですが、その恩恵を受けているのはヤンゴンやマンダレーに住む大卒者です。大都市の大卒者の給与が3万円ほどで、地方での従事者や中卒・高卒者は1万円代とも言われています。同じ世代であっても、勤務地域によって給与が2倍3倍と異なることもザラにあります。

給与相場は今後も上昇していくと予想されますが、まだまだ日本とは差があり、IT開発や製造業の工場の新設・移転にはまだ十分メリットがある状況と言えるでしょう。

ミャンマーの最低賃金

ミャンマーの最低賃金は日給4,800チャット(約360円/8時間)、時給は600チャット(約45円)です。この賃金は従業員10人以上の事業所に適用されるもので、2018年に最低賃金法によって定められました。ミャンマー国内でのインフレも進んでいることから、賃上げを要求する動きもあり、近々値上げされる可能性もあります。

「『日給』が数百円単位って、こんなに人件費が安く済むの?」と感じるかもしれません。しかし最低賃金に関しては、日系企業がミャンマーへ進出する場合はあまり関係のない数字です。都市部の賃金は上昇傾向ですし、最低賃金で人材を募集している日系の会社はありません。

日系企業が東南アジアに進出し求人を出す際は 通常 、給与は周りとの兼ね合いを見て決めます。給与面でアピールする必要がない場合は、おおよその平均金額を提示する会社が多いです。

ミャンマーの労働時間について

ミャンマーで働く人の様子

次にミャンマーの労働時間に関して、法定労働時間や休憩時間を紹介します。

1日、1週間の法定労働時間(業種別)

ミャンマーの法定労働時間は、特別な事情がない限り 「1日8時間かつ1週間で48時間以上働くことは許されない」と労働法で定められています。ただし工場労働者は、工場法で「1週間44時間まで」です(男性かつ技術者で継続勤務が必要と判断された場合は48時間まで)。

日本の法定労働時間は、ご存じの通り1日8時間かつ1週間で40時間です。

ミャンマーの年間の時間外労働は60時間までなので、基本的には定時の時間内で終わるような業務分担と人材採用をした上で、事業を運営していく必要があります。

平均の労働時間

ミャンマーの平均労働時間は、日本と比べると全体的に短いです。残業手当や休日出勤手当が高く、会社として推奨していないからという事情もありますが、やはり彼らにとって一番大事なものは家族です。なるべく多くの時間を家族とともに過ごしたいため、長時間労働は好みません。

時間外労働も 「年間」で 60時間までと決められているので、多くの人は定時で帰ると考えておくとよいでしょう。

1日の休憩時間の決まり

ミャンマーには、1日の休憩時間に関して「5時間以上連続して勤務してはならず、間に30分以上の休憩を取ることを必要とする」という決まりがあります。

フルタイムの勤務でも、30分の休憩時間で法的には問題ありません。しかし現実には、8時間フルタイム勤務で30分休憩、というのはかなり厳しい労働環境です。適切な休憩時間を定め、従業員の健康を損なわず作業効率も良くなる環境を整えるべきでしょう。

ミャンマーの労務管理、保障、賞与

ミャンマーの労務管理

ミャンマーの残業費用や有給休暇、産休、育休に関する制度など、労働法で定める労務や保障についても見ておきましょう。

残業代、休日出勤にかかる費用

従業員に残業代や休日出勤をさせた場合には、通常の2倍の賃金を支払わなければなりません。日本は残業は25%増し、休日出勤が35%増しで済むことを考えると、その点は大きく異なります。

残業代や休日出勤費用を支払ってまで働いてもらわないと終わらない、そんな業務分担・時間配分は得策とは言えません。ミャンマーでは残業・休日出勤はやむを得ないときにのみ使う手段とし、日常の業務をいかに効率よく定時内で終わらせるかにフォーカスしていくべきです。

休日(法定休日や有休休暇の種類)

ミャンマーの法定休日は、労働法によって日曜日と定められています。先述した通りミャンマーでは法定労働時間が 「1日8時間かつ1週間で48時間まで」 とされていることもあり、週6日間の勤務をベースに考えている企業も少なくありません。

ベトナムやタイなど近隣国では、毎週もしくは隔週土曜日も休みとする企業が多いですが、ミャンマーではそのケースは非常に少ないと言えます。

しかし、一方でミャンマーの祝日は年間28日と非常に多いです。日本では16日の祝日がありますが、ミャンマーにはその倍近い数です。平日の祝日休みが多く、中には1週間祝日が続く時期もあります。日本とは違った休日サイクルになることも理解しておきましょう。

また、給与が発生する休暇については、いくつか種類があります。

有給休暇

休息や娯楽目的のために、最大10日間の取得が可能。取得には12カ月以上勤務し各月で20日以上出勤する必要がある。ただし使用者は、12カ月以下の場合でも、期間に応じた日数を付与しなければならない。

臨時休暇

緊急の私的な用事のために、1年間で最大6日の休暇を取得できる(一回の休みで連続は3日間まで)。

医療休暇

病気やケガなどの療養のため、1年に最大30日間の取得が可能。6カ月以上の勤務期間が必要で、6カ月未満の場合は無給となる。

有給休暇については、使用者との合意に基づいて最大3年まで繰り越しできる制度もあります。

日本と違い、労働者は休暇を取ることを前日や当日になって告げることが多く、使用者の計画通りに進まないことも多々あります。使用者側は就業規則や雇用契約書などで、休暇の事前の届出の必要性と時期について言及しておくべきでしょう。

賞与

ミャンマーの会社の賞与は年1回か2回、支給額は1カ月~2カ月が目安です。日本と同じく法定上の支給義務はありませんが、従業員のモチベーションアップのために支給している会社が多いようです。

産休、育休の制度

産休、育休についても労働法によって定められています。産休は産前6週間、産後8週間の計14週間の取得が認められます。その会社に勤務して継続1年以上が経過、かつ6カ月以上のあいだ社会保険料を支払っている場合には、直近1年の平均賃金の70%を受給できることになっています。また、出産費用として月給の半額(子の数によって変わる)が支給されます。

また、「配偶者出産休暇」 というものもあります。これは、配偶者が出産した場合に、夫が身の回りの世話のために15日間の休暇を取れるというものです。夫が社会保険に加入している場合は、直近1年の平均給与の70%が支給されます。また、夫は社会保険に加入しているが妻は未加入の場合、出産費用の半額が支給されることになっています。

優秀な人材確保のためには、こういった出産・育児に関する環境を整えることも重要です。

失業保険はあるけどない?

失業者に関する保障も、法律上は制度が定められています。

その内容は、社会保険料を36カ月間納付していた場合は、前年度の平均賃金の50%を最大2カ月まで毎月受けられる、また、36 カ月以上納めていた場合は12カ月分の社会保険料の納付ごとに、さらに1カ月分の失業給付を受けられる、というものです。

しかし、制度が存在してはいるものの、実際に運用はされていません。つまり、失業保険として機能していないのが現状です。

ほかにもミャンマーには、制度として存在はするものの運用されていない社会保障制度がいくつかあります。そのため、政府の保障に頼らず任意保険に加入して従業員の福利厚生面を充実させることも、会社の一つのメリットとして人材確保に活かすことができるでしょう。

ミャンマーの主な労働関連法

ミャンマーの労働時間イメージ

最後に、各種の労働法の中から、知っておくべき主な法律の概要を説明します。

最低賃金法

上の章でも紹介しましたが、10名以上で事業活動を行う使用者と、労働者に適用される法律です。日給、時給それぞれの最低賃金を定めるもので、違反すると罰則もあります。

店舗および商業施設法

店舗や商業施設、産業施設に対して、それぞれ休日や営業時間、労働時間、賃金についての決まりを定めた法律です。業種や業態に合わせた法律を遵守する必要があります。

工場法

工場労働者の労働条件(労働時間や勤務日数、時間外労働など)や、工場の占有者の義務、安全衛生や労働環境に関する規定が定められています。

工場では自社の安全配慮に加えて、周辺への公害対策も重要です。この法には、工場が行う対策と労働条件についての記述があります。

社会保障法

ミャンマーでは、①健康およびソーシャルケア保険制度、②家庭支援保険制度、③障害給付、老齢年金給付および遺族給付保険制度、④失業給付保険制度、⑤その他の社会保障制度、の制度が存在します。

しかし現在機能しているのは、①健康およびソーシャルケア保険制度のみです。

この制度では、妊娠、出産、疫病に対する医療の提供や金銭の給付を行っています。

まとめ

労務管理

ミャンマーの労働事情と労働関連の法律について紹介しました。

海外で事業を行う際は、その国の労働事情を把握しておきたいものです。人を雇うには労働や社会保障に関する法律も理解・遵守する必要がありますが、法律関係は複雑な上、存在しているのに機能していない制度も少なくないのがミャンマーの実情です。

ミャンマーに精通したコンサルティング会社や現地の人のアドバイス等がないと、起業当初は数多くの壁や困難にぶつかってしまうことも容易に想像できます。

事業に集中したい、法律関連に頭を悩ませる暇はないがミャンマーの人々にも最適な労働環境を与えたい、そう考えたらまずはミャンマーのビジネスに強い専門家に相談することをおすすめします。