ミャンマーは近年、アパレル産業の製造拠点として世界から注目されています。

なぜミャンマーなのか、その理由には、安価な人件費や経済的特区の設置、ミャンマー人の手先の器用さなどが挙げられます。

また2010年以降、製造業の多くの企業が中国一国集中の生産体制から「チャイナプラスワン」の生産体制に移行したことも、ミャンマーに外資系アパレルメーカーが進出する後押しになったと考えられます。

ミャンマー経済に欠かせないアパレル産業

ミャンマーの仕立屋イメージ

農業国から工業国への転換を模索するミャンマーでは、現状アパレル産業が食品加工業とともに製造業の中心を担っています。その労働者数は最大で約400万人といわれており、ほとんどは若い女性です。

ミャンマーの総人口が約5405万人(2019年/世界銀行による)であることを踏まえると、約400万人(最盛期)が従事するアパレル産業は、製造業のみならずミャンマーの主要産業の一つ。ミャンマーの経済を支える重要な産業の一つなのです。

ミャンマーのファッション文化が背景に

ミャンマーではもともと、既製服よりオーダーメイドの服を着ることが一般的でした。生地屋で生地を購入し、その生地を仕立屋で自分の好きなデザインの服にしてもらいます。

そのためミャンマー人にとって、縫製の作業は身近なもの。ミャンマー人は手先が器用だと言われていますが、こうした事情もあるかもしれません。作業のスピードも速く、現地の仕立屋では注文を受けてから数時間で完成品を仕上げてしまうほどです。

外資系アパレルメーカーの進出とその理由

ミャンマーへの外資アパレル進出

2011年の民主化以降、ミャンマーのアパレル産業は急成長してきました。その主な要因といえるのが、海外のアパレルメーカーにより相次ぐミャンマーへの事業進出です。

ミャンマーへの進出理由①安い人件費

特にアパレル産業は労働集約型のビジネスのため、人件費が安いことは製造拠点を作る上で重要な条件の一つであると考えられます。

賃金水準を見てみると、日系製造業で働くミャンマー人作業員の平均月給は159ドルです。

周辺の国と比べてみると、隣国タイでは446ドル、ベトナムが236ドル。ミャンマーはほかの東南アジア諸国に比べても人件費が安いことがわかります。


参考:JETRO https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2020/cbdf0cefc691ae25.html


ミャンマーに製造拠点を置く外資系アパレルメーカーは、完成品を海外に輸出することを目的として製造しているケースがほとんどです。

原材料をミャンマー以外の国から調達して、ミャンマーで加工し、完成品を全量ミャンマー国外へ輸出する生産方式。これはCMP(Cutting, Making and Packing)委託加工と呼ばれています。

また、完成品になる前段階までを人件費の安いミャンマーで加工し、最終的な加工を中国やベトナムで行うケースもあります。

ミャンマーへの進出理由②経済制裁の解除

ミャンマーに外資系アパレルメーカーが多数参入した背景には、2012年頃から始まったEUやアメリカによる経済制裁の解除も大きく関係しています。

2013年のEUによる経済制裁が撤廃されたことにより、ドイツなどのヨーロッパ諸国への輸出が増えました。欧州系のアパレルメーカーがミャンマーに製造拠点を設け始めたのもこの時期です。

2016年にはアメリカからの経済制裁も全面解除され、対アメリカのアパレル輸出も増加しました。アメリカ側の貿易統計によると、2019年上半期のミャンマーからの輸入額は3億3,300万ドル。衣料品はそのうち1億500万ドルで、前年同期比49.6%増というから驚きです。


参考:JETRO https://www.jetro.go.jp/biznews/2019/09/47ea050e27fefd4f.html


こうした背景から、日本でも人気となったスウェーデンのファッションブランドH&Mも、ミャンマーに進出。アメリカの有名ファッションブランドGAPも、ミャンマーに進出しています。

また、中国系のアパレルメーカーによる新規工場の設立も活発に。もとより中心となっていた日本や韓国のアパレルメーカーからの受注も、大幅に増大しています。

こうした背景をもとに、仕立て技術の学校や専門学校の増加によって、さらなる製品の品質向上と生産量の向上が見込まれます。

外資によるミャンマー発ブランドの設立も

また、5年ほど前から、外国人によるミャンマー発のファストファッションブランドもいくつか設立されています。これらのブランドとCMP委託加工形態の異なる点は、前者は現地で企画、製造、販売を実施している点です。

原材料を海外から輸入するのではなく、ミャンマー産のものを使用し、製造後の販売もミャンマーで行われています。もちろんそれらを輸出する場合もあると思われますが、ミャンマーの消費市場もターゲットにしている点で大きく異なります。

ミャンマーのアパレル産業は、輸出用の製造拠点としてだけではなく、消費市場としても徐々に成長していると言えるでしょう。

政府による外資受け入れ体制の構築

ミャンマー中心部

ミャンマー政府による受け入れ体制についても見ておきましょう。政府は外国からの投資を促進するために、外資投資の受け入れ体制を整えています。具体的には、経済特区の開発や法律の制定、配電網や発電設備といった電力インフラの整理の実施です。

改正外国投資法と経済特区

2012年に軍事政権時代に制定された外国投資法を見直した改正外国投資法が改定されました。それにより外資の規制業種を、完全禁止の業種、合弁により許可する業種、一定の条件付きで許可する業種に分類しました。

また、2014年には改正経済特区法(新SEZ法ともいう)が成立しました。同時期に、日本とミャンマー共同のもと、ミャンマー初の国際水準の工業団地である「ティラワ経済特区」が作られています。

経済特区法は、特定の経済地域内における各種の優遇措置を規定するもの。優遇措置とは、会社法上の規制、外国投資法上の規制、不動産移転制限法など個別法の規制を適用外とするものです。

経済特区はFree ZoneとBusiness Promotion Zoneの2種類に分類され、それぞれで受けられる優遇措置が異なります。たとえばFree Zoneは輸出型企業が対象で、7年の法人税免除および輸出関税が免除されます。

ミャンマーには、原材料を輸入して製造する企業にとって投資しやすい環境が整っていると言えるのです。

経済特区のメリット

ミャンマーの大きな課題の一つに電力不足が挙げられますが、経済特区では、電力開発システムを完備しています。経済特区内に製造拠点を設ければ、優遇措置を受けられるだけではなく、インフラも充実した環境で製造できるのです。

ミャンマー投資委員会が定めた投資推進分野通達の中で奨励業種が規定されており、製造業はその対象でもあります。

このように、外国投資法や経済特区法の法律策定など法律の面からも、ミャンマーは国をあげて外資の受け入れを増加させようとしています。

ミャンマーのアパレル産業と新型ウイルス

ミャンマーの街の様子

急速な成長をしているミャンマーアパレル産業ですが、新型コロナウィルス感染拡大により、その勢いは低下しています。

物流のストップと製造量の減少

2020年3月ごろから、世界各国の政府が国内外の移動制限やロックダウンといった措置を行い始めました。ミャンマーでも影響は大きく、感染拡大予防のための通勤規制が行われるなどしました。海外からの注文は激減、物流がストップし、結果としてサプライチェーンへの影響が出ています。

ミャンマーに進出している多くの外資系アパレルメーカーは、先に述べたように原材料を輸入し、完成品を輸出するCMP委託加工を行っています。新型コロナによって輸出入が容易にできなくなると、そもそも原材料の輸入や完成品の輸出が難しくなります。

また、世界各地の主要輸出先市場で消費意欲が減退し、それに伴いアパレル製品の製造量も減少しているのです。

経済の回復に向けた国内の動き

長期的な休業や操業停止状態が続くと経済に深刻な影響を及ぼすことから、ミャンマー政府も人命と経済の両立を図ろうとしています。

ミャンマー保健省では人命を守るため、ミャンマーの最大都市ヤンゴン管区内の委託加工形態CMP企業に対して、条件を満たす場合にのみ操業を許可する通達を出しました。

各工場や事業所などの新型コロナウイルス感染予防対策が、管区政府の審査によりAレベルに達していることが条件となっています。

しかし外資系メーカーの中には、製造停止あるいは撤退を選択せざるを得ない企業も出ており、縫製工場で働くミャンマー人労働者が解雇され、多くの失業者が出ました。

失業したミャンマーの縫製労働者のために、EUは約6億円の緊急基金を設立するなどの支援を実施しています。

コロナ後のミャンマーアパレル業界の希望

ミャンマーのアパレル用糸イメージ

新型コロナウイルスの蔓延により、アパレルの工場で働いていたミャンマー人労働者は多数失業しました。

しかし、コロナ後のミャンマーアパレル産業は再び成長することが見込まれます。コロナ禍が収束すれば、ミャンマーアパレル産業には再び勢いがつくことが予測されます。そうすれば、職を失った彼らへの雇用の機会もあると考えます。

もちろん新型コロナの影響は大きいので復活には少し時間がかかるかもしれません。しかしミャンマーには質の良いアパレル製品を生み出す素地がすでにあり、製造拠点としての人材力や環境が整っているのです。参入しやすい市場であることは間違いありません。